今回の『映像の世紀』テーマは戦時下の芸術家についてだった。
その中で名前が出てきた作家火野葦平さん。
私が彼の名前を認知したのはほんの数ヶ月前、檀一雄さんの文章に名前が出てきたからだ。
それ以前の気持ちとしては名前見たことあるな〜ぐらいのものだった。代表作『麦と兵隊』のタイトルは知っていたので。
檀さんは『文士十年説』の中で自説について改めて考えるきっかけになった出来事として火野さんの訃報をあげている。
そして太宰治さん・坂口安吾さんの死を知った時との感じた事の違いを書いていた。
私もこれまで何度かこの作品を読み直してはいたが、今まではただ同じ【死んだ】という一つの出来事だとしか捉えていなかった。
しかし今日初めて火野さんが【自殺者】だと知ったことで、感じ方の深みが変わった。作中に書かれている檀さんが電話を受けた時の衝撃や感情の重みが段違いに増したのだ。
【死】という事実にショックを受けたのは間違いないだろうけど、もしこれが自殺じゃなかったら、ここまで強く檀さんにきっかけを与える事もなかったのかもしれない……。とも少し思う。
私は『文士十年説』を読んで火野葦平さんの作品に直接触れてみたいと思った。
檀さんが「火野軍曹」と表現し、戦時下で国家に歓迎される作品を生み出し続けた人がどんな物語を書くのか知りたくなった。
とは言えまだ小説自体は読めていないのだけれども。
数日前、契約している配信サービスで映画『陸軍』が見れることを偶然知った。せっかくなので作業のお供に流してみた。
お国と陛下のために戦場に行きたがる祖父・父・息子の三世代。一応演技とはいえあれがあの頃の普通だったかと思うとやっぱり怖いし、たった数十年前の出来事だと思うとなおさら恐ろしい。
そんな中で最後の出兵する息子を追いかける母親の姿はとても印象に残った。ながら見ですら印象的だったのだから、終始映画と向き合い続けていたらもっと強く感じるものがあったと思う。
息子を見送る母親の目には作中で強く描かれていた立派に戦ってきなさいという気持ちではない「行かないで。死なずに帰ってきて」という悲しい願いが籠もっているように見えた。
その一方で息子は明るい表情で母親を見ていて、そのギャップにゾッとした。
もちろんメディアミックスなので原作を手掛けた火野さんだけじゃなく、監督や他の人の伝えたいことも混ざっているだろう。
でもだからこそ原作を読んで比べたいな、とも思った。
最後に今日の映像の世紀を見て思ったことをポツリ。
国に従う・従わない、国に残る・他国へ亡命する、どちらが正しいか私には判断できない。それでもどちらも自分の守りたい文化や表現のために闘っていて、そんは姿はかっこいいなって。